2013年8月7日水曜日

メディア業界狂騒戯曲「ネットワーク」

  「ワタシはテレビの前で自殺する事を予告する」から、「テレビなんて全て幻想である、さっさとTVを消すのだ」・・・。

 シドニー・ルメット監督の傑作「ネットワーク」で、主人公で大手メディアUBSの報道番組で主人公であり、長年ニュースキャスターを務めてきたハワード・ビール。

 報道業界に携わる人々は、視聴率競争や収益確保、製作者側の野心によって、全員気が狂ってるぜ・・・という報道業界風刺映画が「ネットワーク」です。

 いきなり始まりがナレーションから始まり、ハワード・ビールが番組で「私は公開自殺する」なんて言い放つ。もちろん、他のメディアも、その発言を取り上げ世の中大騒ぎ・・・。理由は視聴率低下によって自分のクビが決まったから、ちょっと気が狂ってしまいました。

 公開自殺予告の後、製作陣は大慌て。ということで、株主にどう説明するか悩みます。いきなり株主ですか・・・。報道業界の倫理はどこに逝ったの?って言うのが映画の始まりです。

 こんな事日本ではありえませんが、「ネットワーク」が公開された当時(1976年)のアメリカ社会は、ウォーターゲート事件やベトナム戦争終結、アメリカとソ連のイデオロギー対立、中流階級における夫婦交換の流行、宗教問題、石油危機等もう激動の時代でした。

 こういう激動の時代になると、報道のネタも事欠かないが、視聴率競争の為に番組内容がどんどん極端になり、いつの間にかハワード・ビールがテレビ宣教師のようになってしまうのです。ヒトラーのように大衆を扇動していきます。報道を通じて・・・。

 何故報道内容がどんどん極端になり、視聴率競争の為に手段を選ばなくなるか。単なる収益確保だけではないのです。いや、私達にとって身近な出来事によって狂っていくのです。

 まず最初のナレーションに、ハワード・ビールが妻と死に別れ、鬱的症状に悩まされアルコール中毒になり、視聴率低下も重なって解雇通告を受けたと解説されます。家族の不幸と、仕事の不幸が重なり合うことで、ハワード・ビールが狂っていくのです。それが、一キャスターがテレビ宣教師のようになり、世の中は不正ばかりだ、テレビでやっている事は全て嘘だと大衆を煽り、国民の怒りを糾弾するアイコン的象徴になるという・・・。

 それなら、即降板させてハワード・ビールをテレビに出さないようにすべきですが、視聴率競争に使えると思った女性プロデューサーがハワード・ビールを使う事にしました。その女性プロデューサーが実権を握り、視聴率獲得の為に極端な報道番組を作っていきます。最初は、物珍しさに注目が集まり、視聴率競争でダントツになり、表彰される一大センセーショナルになるのですが、途中で大株主を批判するような発言等が目立ち、番組制作がうまく行かなくなり、結局視聴率が落ちはじめて・・・というシナリオです。

 この映画で描かれる問題は、現代のメディアが抱えている問題そのものです。

 ①マスメディアの倫理崩壊で、差別的・扇動的内容を報道することによって、視聴率を稼ごうとする。報道ではなく、単なるプロパガンダになってしまい、国民を間違った方向に向かわせる危険性。

 ②株主利益のために収益拡大に走らざるをえず、それが視聴率競争を過熱させ公平な報道が不可能になる。また、大株主の利害関係で報道機関におけるタブー的内容が増え、公平な報道が成り立たなくなる危険性。

 ③極端な報道ばかりする番組を流しても、報道主の大手メディアは責任を取らない。番組制作中断で終わり・・・。

 アメリカのメディアにおいては、FOXニュースはニュース・コーポレーション傘下であり、ルパート・マードックの意図通りに報道されますね。またNBCもGE参加のメディアである以上、GEに不利益になる報道がやりづらい状況が生まれてしまう。「ネットワーク」では、ハワード・ビールがUBSの大株主であるCCAという企業を批判することによって急展開を迎え、現代のメディアコングロマットに対する危険性を示唆しています。

 この映画における描写は滑稽で、報道に全てを掛ける人達が織りなす人間ドラマという見方をすると、絶対面白く感じません。だからこそ、落ち着いて見れるのですが、映画の中で描かれる問題が現代のメディアに起こっていると思うと、怖い気持ちにもなります。報道もビジネスの一つなのでしょうか・・・。

 登場人物が虚飾にまみれた視聴率ジャンキーで、男も女もみんな狂っている人ばかり。こんな人達が今のテレビ番組を作ってるんじゃないの?と思うようになったら、それはそれで一種の洗脳かもしれません。

 映画の途中、女性プロデューサーがUBS内で表彰されるシーンがあるのですが、「私達は視聴率トップのメディアになるのよ」と言ったら、参加した社員全員発狂します。ハワード・ビールが番組でオーディエンスを煽って絶叫する反応とうり二つ。番組作っている人たちも、煽られる大衆も大して変わらない。かたやビジネスを視聴率狂騒と割り切って、視聴率取れるなら内容なんてどうでもいい、かたや面白くて、自分の怒りを代わりに吐き出してくれる番組サイコ―と思う視聴者・・・。

 報道に携わる人々も、やっぱり人間なんですね・・・。
 

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