2013年5月8日水曜日

少数民族が迫害されてきた歴史と映画の娯楽を両立した「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」

歴史的事実を再現した映画は沢山ありますが、そのような映画は、どうしても娯楽性が低くなりがち。その中で歴史的事実を学ぶ良い機会になりつつ、映画としての娯楽性を両立した名作を挙げるならば「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」ですね。

 X-MENはアメコミとして非常に有名ですが、その内容を見ると、歴史的に深いテーマが含まれており、それは少数民族の迫害の歴史です。

 X-MENは、ミュータントと呼ばれる突然変異によって特別な力を得た超人的集団の事を指します。その中で、プロフェッサー・X率いる正義の軍団と、マグニートーの悪の軍団の戦いをコミックとして描いたものです。
 
 テーマは、少数民族の迫害の歴史であり、ミュータントと人間の戦いは、アメリカのマイノリティーが経験した苦難そのものと言われています。原作者はスタン・リーで、ユダヤ系です。マイノリティーの中でもユダヤ人の迫害の歴史を反映したともいえます。

 予め言うと、筆者は原作コミックを読んでいませんので、多少知識が足らない事もありますが、ファーストジェネレーションは、アメコミが原作の映画の中で、歴史的背景を踏まえつつ、娯楽性も高い傑作と思っています。

 ファースト・ジェネレーションの初めは、ユダヤ人に対するホロコーストから始まります。舞台は1944年のポーランドで、ユダヤ人が強制労働させられている施設で、少年時代のマグニートー(エリック)が、実の母が隔離されてしまう衝撃的なシーンです。ナチス兵が、母親を隔離していく時に、エリックが母の名前を叫び、門を超能力で開けるのです。その状況を見た兵士が、エリックの超能力に気づき、物語が始まります。

 エリックの超能力が本物か確認する為、シュミット博士(ケビン・ベーコン)がエリックに、コインを動かすよう命令します。しかし上手く動かせないエリックに対して、実の母親を呼び出し銃を向け、もう一度コインを動かすよう命令し、最終的に母親が殺されてしまい、エリックは超能力を開花させるのです。

 この映画は、設定が非常に良く出来ており、ホロコーストとエリックの超能力を絡めて、少年時代のマグニートーのトラウマを描き出しています。少年期に経験した迫害の経験、母親を目の前で殺された憎悪が、本作のカギになりシナリオが進んでいきます。(あらすじはこちら)

 プロフェッサーX(チャールズ)の若き頃もマグニートーと同時に描かれるのですが、エリートでモテるオトコなので、非常に対極的です。

 シナリオは、プロフェッサーXとマグニートがお互い協力していく様から、お互いが何故決別していくのかを描いているのですが、決別した理由はエリックの迫害を受けた経験から生まれる憎悪ですね。

 ナチスドイツによって母親を殺され、復讐心を捨てることが出来なかったエリック。かたやエリートとして育ち、充実した人生を送ってきたチャールズ。チャールズが必死にエリックの復讐心に駆られた暴走を止めようとしても、結局エリックがシュミット博士を殺すために一線を越えていくシーンこそ、少数民族が迫害され、その復讐の為に何もかもが狂っていく人間を象徴している。

 超能力を持っていようが、感情を持つ人間と変わらず、迫害されて犠牲を強いられた人は、復讐のために全ての情熱を捧げてしまうのです。そういう意味で、エリックがチャールズと決別し、マグニートーとして生きる事を決意していく過程こそ、実は私達が実際に経験している身近な出来事と言っても過言ではありません。

 ユダヤ人は、キリストを殺した民族としてローマ人から迫害されていきます。迫害されていくと商業時な選択が狭まり、キリスト教において金利を取ることが禁止されていたので、ユダヤ人が金融業を営むことになる。しかし、金融業で成功していくユダヤ人が増えるにつれて、ユダヤ人迫害が過熱してしていき、ホロコーストという史上最悪犯罪の被害者になっていくことは有名な歴史です。

 ファーストジェネレーションは、そのユダヤ人迫害の歴史を反映しつつ、実際に迫害された人間が、どのように変わっていくかを描き出している点で、歴史的事実・娯楽性を両立しつつ、根底にあるのはエリックの復讐の心情と、それを抑えようとするチャールズの織りなす人間ドラマ。

 アベンジャーズは娯楽のみで、深いテーマが存在しないので面白いと感じる人もいれば、物足りないと感じる人もいるでしょうが、ファーストジェネレーションは違います。アクション映画として楽しめるのに、見方を変えれば歴史的事実を学ぶことが出来るので、家族で見て子供に迫害される人の気持ちを学ばせる良い教育映画にもなります。

 映画の終盤は、キューバ危機におけるアメリカ軍とソ連軍が対立を解決した裏にはX-MENの活躍があったという設定ですが、非常に設定上手いですね。13デイズで描かれたケネディとフルシチョフが繰り広げた駆引きの裏に、スーパーヒーローの活躍があったのかと思うと、ボストンテロ以降北朝鮮のミサイル攻撃を防ごうとするヒーローがしているおかげで、金正恩スタイルがおとなしくなっているのかもしれないとすら思えるのです(冗談)。

 町山さんの映画塾における解説もありましたのでリンクを張っておきます。予習編 復讐編
1960年代の映画に詳しい人は、色々懐かしい演出とか多いみたいで・・・。僕は良くわからない演出も多々有りましたが、娯楽性を失わずに歴史を学ぶ機会になると思います。
 

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