2013年5月1日水曜日

中央銀行陰謀論を紐解く「ザ・マネー・マスターズ」

デフレ脱却・金融緩和が、現在の日本銀行のプライオリティーのようです。為替や長期金利が急激に変動しており、国民生活の安定には、あまり良い事とは思えませんが・・・。

 中央銀行とは、国家の金融政策の中枢であり、経済の好不況において金融政策を決定し、国家の安定的経済運営に務めるのが義務というのが一般的認識。

 しかし、中央銀行とは常に陰謀論に晒されるのが歴史の常であり、その陰謀論の起源はアメリカの中央銀行の成り立ちにあるのではないかと、この「マネー・マスターズ」という映画を観て思いました。

 この映画は、「マネーの進化史」の内容に近いかもしれません。マネーが生まれた背景や、そこからお金の貸し借り、銀行の成り立ちを解説し、中央銀行がなぜアメリカにおいて作られた背景を解説しています。

 内容自体、マネーという概念を、近代ヨーロッパやアメリカの隆盛の歴史に絡めて説明しているのですが、個人的に疑問が残る説明も多々あり、ドキュメントとして内容を全て信じようとは思いません。映画の作者であるベン・スティル氏について調べてみたが、ウィキは削除されており、多少怪しい経歴のようです。どうやらリバタリアンの思想みたいです・・・。

 ただ、このドキュメントは、中央銀行がなぜ陰謀論的に批判されるのかを学ぶ良いドキュメントと筆者は考えております。

 本作の主張を端的に言えば、FRBはヨーロッパの銀行家(ロスチャイルド一家)が支配しており、アメリカ経済は既にモルモットであると。中央銀行陰謀論は、日本だけじゃなくアメリカに存在していたという事を認識する良い機会になりましたw。

 アメリカ大統領と中央銀行に対するスタンスを解説するが、個人的に最も印象に残っている内容はリンカーンの中央銀行に対するスタンスと、ヨーロッパの銀行家との対立である。(具体的なあらすじはこちらをご覧ください)

 リンカーンと言えば、南北戦争で共和党の大統領として北軍を勝利に導き、南北で分裂していたアメリカを統合した偉大な大統領であります。

 本作で解説されていたリンカーンと中央銀行に関係は以下の通り。(端的なまとめ)

 ①南北戦争の勝利には、莫大な戦費が必要であり、北軍も戦費調達の必要性に駆られていた。

 ②しかし、ヨーロッパの銀行家は、北軍の資金調達の要請を受けたが、莫大な金利を設定したためあえなく資金調達を断念。

 ③そのためリンカーンは、議会でグリーンバック紙幣呼ばれる政府紙幣の発行を承認し発行させた。政府から発行された紙幣は、兵士に対する給与の支払い等の戦費に当てられた。(ウィキによる解説)。

 リンカーン曰く、「政府が必要な資金需要と消費者の購買力を満たすには、政府自身が通貨を発行し、信用を創造し、循環させる必要がある。通貨発行の特権は、政府の最高級の特権だけでなく、最も偉大な創造的機会である。この原則を採用すれば、納税者は莫大な金利負担をカットでき、マネーが人間の君主にならず、人間に対する奉仕者にする事が出来る。」

 
 しかし、リンカーンの意志に反発したのがヨーロッパの銀行家で、ロンドンタイムスに、アメリカの金融政策を批判する記事が掲載し、リンカーンに対しての警戒を表明した。

 「もし北米で生まれた金融政策が、経済基盤として固定された場合、政府が金利等のコスト負担ん無しにマネーを発行し、栄える事が出来るだろう。そして新たな借金なしに、既に存在する借金をペイオフする事も出来る。これは、北米が、商業政策に必要な資金を確保できる事を意味する。このままいけば、北米が経済的に繁栄し、優秀な頭脳、世界に存在する全ての富が北米に向かうだろう。我々が築いた経済支配を守るために、北米の君主制を地球上から破壊しなければならない」

 その後、南北戦争が激化し北軍側が資金を必要としたので、リンカーンはグリーンバック紙幣のさらなる発行を承認。国民銀行法(ナショナル・バンク・アクト)を制定し、政府が紙幣を発行する仕組みを構築し、マネーサプライで経済をコントロール出来るようして、ヨーロッパの銀行家からの経済支配に対抗した。

 解説の結論としては、ヨーロッパの銀行家に対抗し、新たな経済運営の仕組みを構築しようとしたリンカーンは暗殺される。南北戦争に敗北した南部側の復讐を利用し、ヨーロッパの銀行家がリンカーンの暗殺を画策し実行したのであると。

 筆者の見解としては、一見論理が成り立っているように見えるが、これが事実かどうかは疑問であり、本作の主張をそのまま受け入れるのは危険とは思う。マネーの進化史で解説される南北戦争の金融政策とも相違点も見受けられる。

 マネー・マスターズで主張されている陰謀論は、ヨーロッパの銀行家に対する不信であり、通貨発行の特権が、アメリカ人以外の勢力に握られているという点が特筆すべき内容だろう。

 中央銀行のマネーサプライを牛耳る事で、金利を下げ資金供給を増やし、あえて好景気にもっていく。不動産等のバブルを引き起こした状態で金利を上げれば、ローンを借りた債務者はたちまち資金不足に陥るため、不動産の投げ売りが起こり、価格下落時に一部の資本家が富を確保するのが目的であるというのが要旨の一つである。

 歴史とは、文献のみでしか記録が残っておらず、この主張が事実かどうかは専門家の判断に任せよう。事実かどうかは筆者には判断不可能である。しかし、中央銀行がなぜ陰謀論に絡めて批判されるのか、その理由は理解出来た。


 理由の一つは、過去の歴史に対する解釈の違いだ。中央銀行は、国家経済の安定的運営に全力を尽くしているという論者であれば、本作の主張は受け入れられないだろう。リフレ派と呼ばれる有識者であれば、マネー・マスターズの歴史的解釈や、その主張を肯定するかもしれない。

 経済思想には、様々な流派が存在し、自分たちの信じる思想、立場を推進しようとするので宗教的対立の側面もある。その思想・立場を肯定する手段が、歴史に対する解釈である。どれが正しいかなど、庶民には分かるはずもない。思想家ですら、過去の歴史を自分達に都合の良い解釈をしている可能性も否定できないのだから。

 何が正しいかは分からない。しかし、同じ事柄に対する説明や解釈の相違点を理解し、相対的に何が正しいのか自分で判断するしかないのだ。

 ここまで完成度の高いドキュメントだと、陰謀論なのか真実なのか分からなくなるインセプション的ドキュメントだと思います。
 

 

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