2013年4月29日月曜日

スピルバーグ監督が作った「ミュンヘン」、本当はイスラエルのモサドじゃなくて、CIAの出番だったんじゃないの?

 今年になって、中東で爆弾テロが多くの方が亡くなった。そしてボストンでも爆弾テロが発生してアメリカ社会に大きな衝撃を与えた。

 ボストン爆弾テロは、イスラム教を信奉するチェチェン系の兄弟が起こしたが、個人的には2001年の9.11同時多発テロを思い出す(犯人はサウジアラビア人と言われているが・・・)

 イスラム教の教えから明らかに乖離した狂気の集団が起こしたテロ事件。ボストン爆弾テロは、アフガン・イラク戦争によってイスラム社会が破壊されていくことを危惧した兄弟が起こした凶行というのが報道に上がっており、この報道が正しいと想定すれば、スピルバーグ監督の「ミュンヘン」について書かざるをえない。

 イラク戦争をテーマにした映画は沢山作られた。アカデミー作品賞を獲得した「ハート・ロッカー」、CIAによるテロ容疑者と見なした人間に対して行っている拷問の実態を描いた「レンデション」等は、アメリカの対外戦略に振り回されるアメリカ人を描いた映画で、個人的に印象に残っている映画です。

 第85回アカデミー賞で作品賞にノミネートされた「ゼロ・ダーク・サーティ」に出てくる拷問シーンは、おそらく「レンデション」が元ネタだと思います。「レンデション」では映画で初めて水責め拷問の実態を描いており、その事実を知って発狂したのか、悲劇のヒロインであるリース・ウィザースプーンは今年ひと悶着起こしました・・・。

 「ゼロ・ダーク・サーティ」は、映画としての完成度は非常に高い。映画としての娯楽性を失わず、ビンラディン殺害に全てを捧げた実在のCIA女性エージェントの苦悩や葛藤を描き出し、ビンラディン殺害作戦を再現したラストは圧巻の一言。アルゴに比べ映画の娯楽性は下回るが、シリアスさは段違いに上回っている。

 しかし、「ゼロ・ダーク・サーティ」の全米初公開は2012年。ビン・ラディンの殺害は2011年ということで、同時多発テロから10年も掛かったのだ。失われた10年といったも過言ではない。




  イラク戦争をやらず、アメリカ軍がタリバンとアルカイダ掃討に全力を尽くしていれば、今の状況は全く違っていたものになっていた。少なくとも、中東で爆弾テロがここまで増えることはなかった。「ハート・ロッカー」がアカデミー作品賞を取る事もなかっただろう。

 イラク戦争は、世界に混沌を生み出しただけであった。そのイラク戦争を直接描かずに批判した映画といえばスピルバーグ監督作「ミュンヘン」。ミュンヘンオリンピックでイスラエル人選手団がパレスチナ系テロリストに拉致され、最終的に全員死亡してしまった事件に対するイスラエル政府の報復を描いた作品。

 当時のイスラエル首相であったゴルダ・メイア(鉄の女?)が、ミュンヘンオリンピックにおけるテロ事件に対して報復を決意する。政府の諜報機関であるモサドに命令し、パレスティナ系の有識者を殺害するよう命じた。詳しくは町山さんの解説をどうぞ。

 2005年のクリスマスに公開され、映画のラストシーンで世界貿易センターを映し出す事により、ブッシュ政権のイラク戦争を批判した。映画のテーマは、報復は報復しか生まない、憎悪のスパイラルを断ち切らなければ、流血が続いていくという事を描き出した。

 スピルバーグ最新作の「リンカーン」でも、リンカーンが「Shall we stop this breeding」と言うセリフがあり、根底にあるテーマは「ミュンヘン」と「リンカーン」に通じるテーマだろう。同じ脚本家(トニー・クシュナー)ということでも推察できる。

 イスラエル政府のモサドによる報復を描く事によってイラク戦争を批判した「ミュンヘン」。本当は「ゼロ・ダーク・サーティ」で描かれたCIAのビン・ラディン殺害作戦。両作とも、政府による報復活動を描いた重厚な作品であるが、本当はスピルバーグが2005年にビン・ラディン殺害作戦を映画化して、スピルバーグ監督作品としての「ゼロ・ダーク・サーティ」が作られていれば・・・と思ってしまう。
「ミュンヘン」におけるSEXシーンは映画史上最も衝撃的な描写だ。(閲覧注意)





 キャサリン・ビグロー監督は女性監督として硬派な映画を撮り続ける骨太な方である。しかし、「ハート・ロッカー」という作品が生まれなければ良かったと個人的に考えている。あまりにビン・ラディン殺害が遅すぎたのだ。その途中にイラク戦争という周り道をしていくことによって、アメリカは軍事的・経済的覇権を失い、今年になってボストンでテロが発生してしまった・・・。

 「ゼロ・ダーク・サーティ」がもっと早く作られている状況であれば、テロで人が死んでいく現代の混沌は防げていたのかもしれないとすら思えるのだ。女性初のアカデミー作品賞・監督賞を獲得したキャサリン・ビグロー。「ハート・ロッカー」や「ゼロ・ダーク・サーティ」は映画として傑作で、評論家からの評価も高い。しかし、イラク戦争さえなければ、こういう映画は作られなかったし、その方が世界にとって好ましかったのは間違いない。

 だからキャサリン・ビグロー監督の真の最高傑作は、「K-19:The widowmaker」なのだ(個人的に)歴史的に、もしイラク戦争が防げたとしたならば・・・だが。

 2013年になって、テロによる流血が続いている状況だからこそ、スピルバーグの「ミュンヘン」を観る価値があるのではないか。キャサリン・ビグロー監督「ゼロ・ダーク・サーティ」を見て、もっと政治的に深いテーマを含んだ諜報機関による報復活動を観たいと思えれば、迷わず「ミュンヘン」をおススメする。

本当に市街地で爆弾テロが起こったら、人はどのように傷ついていくのか。人体がめちゃくちゃになって、阿鼻叫喚の地獄を絵図を容赦なく描いた「ミュンヘン」

 テロを実行し、精神的に追い詰められ自分の良心と葛藤していくモサドのエージェント、テロの標的にされた無実の人々(しかもインテリで、エージェントより数倍頭が良い)。テロに巻き込まれ、泣き叫ぶ市民。中東の平和を名目に強硬的に権力を行使するイスラエル政府。

 映画の中で描かれる残虐さやシナリオの残酷さに一切容赦がない「ミュンヘン」、報復とは血で血を洗う残酷な現実そのものなのだ。

 「ゼロ・ダーク・サーティ」に足らないのは、残虐性だと思う。もっと、血や人体が飛び出るような描写が必要だったのではないか?。爆弾テロの恐ろしさを描いた点については、「ミュンヘン」の方が遥かに上である。

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