2013年4月19日金曜日

アルゴの裏側を理解する為に「ミッシング」

 スピルバーグのリンカーンを追い抜いて、今年のアカデミー作品賞に輝いたアルゴ。ベン・アフレックは監督3作目でアカデミー作品賞取るとは、グッド・ウィル・ハンティングで脚本や演技が絶賛されて以降、色々紆余曲折がありましたが、やはり天才なのですね。

 そんなアルゴ、メタルギアシリーズの小島秀夫さんの2012年で一番面白かった映画と評価するだけあります。ライジングより面白・・・ry

 イラン・イスラム革命勃発によって、アメリカ大使館職員がイラン国内に取り残されてしまい、CIAのエージェントでトニー・メンデス扮するベン・アフレックが、カナダ人として映画撮影を装い、大使館職員を救出したという実際の事件を元に撮影されたアルゴ。

 そんなアルゴをより深く理解するのにオススメな映画、コスタ・ガブラス監督の「ミッシング」をご紹介します。

 ミッシングは、1973年のチリ、ピノチェト率いる軍事勢力がクーデターによって、アジェンデ政権を転覆させた事件を元に作られた作品です。

 チリの軍事クーデターによって、アメリカ人青年のチャールズ・ホルマンという実在の人物が突然失踪し、その家族が失踪した息子の行方を追うが、そこにはCIAの思惑が見え隠れしていたという怖い怖いシナリオ。

 映画の中では、息子の行方を必死に追う父親が、息子が失踪した件についてCIAが関わっているのではないかと勘付きます。しかし、劇中ではCIAが実際にクーデターに関わっていると視聴者の思わせる演出がありますが、本当にCIAが関わっていたのかは明確に描かれません。クーデターと、CIAの関係性をあえて曖昧に描写しているからこそ、リアリティーの高い作品になっています。

 アメリカの対外戦略において、ウィルソン主義というものがあり、一言で言えばアメリカの民主主義を世界中に広め平和に貢献するというもの。(モンロー主義は、孤立主義でウィルソン主義と対極に位置するイデオロギー。)

 しかし、実際は「敵の敵は味方」戦略がアメリカの基本の外交姿勢であり、アメリカにとって最大の敵は共産主義で、共産主義の芽を潰す為なら手段を選びません。民主主義と相対する独裁国家ですら、アメリカにとっては共産主義を潰す手段である。

 中東において親米独裁国家という、非民主主義でありながらアメリカと経済的に深く繋がっていた国家が存在していた理由の一つは、独裁者がイスラム勢力を弾圧してくれるから。

 チリ・軍事クーデターは似たようなパターンで、左翼的に傾きつつあったアジェンデ政権を転覆させる為にCIAが軍事クーデターを画策し、ピノチェト率いる軍事勢力が、チリの政権を掌握したという背景があります。

 軍がクーデターを起こし、政権を掌握するという事件には、CIAの思惑が絡んでいる事が多く、親米独裁という、民主主義と相対する独裁国家がアメリカと繋がっている背景でもあります。実態は、もっと複雑で、宗教的対立や石油資本と現地政府の癒着などを挙げればキリがなく、全体の状況を理解している人は、ほんの一握りでしょう。(ジョージ・クルーニー、マット・デイモン出演のシリアナという映画は、中東諸国とアメリカの複雑な繋がりを描いた名作です。)

 ミッシングでは、軍事クーデターにCIAが関わっていた事を曖昧ながら描いている点がリアルで、アルゴの場合は、イランにおける親米のパーレビー王朝が、イスラム革命によって崩壊する時点からシナリオが始まるので、どうしてもアメリカ側から見たイラン・イスラム革命という作品にならざるをえない。
 
 イラン政府がアルゴの内容を批判するというのも、アメリカ政府の都合によってイラン国内が蹂躙されたという認識が存在するからです。実際の事件を映画化した場合、製作側の意図や政治的プロパガンダが含まれる事は避けれらない為、イラン側の批判も一理あると言えます。

 コスタ・ガブラス監督は、他にもZ、戒厳令、告白といった三部作で、実際に起きた政治的に有名な事件を実写化する監督なので、もしアルゴを見て政治や外交に興味を持たれた方は、ミッシングやZ等の作品をオススメします。

 イランから見たアルゴに対する反論的映画は、どのような内容なのかも目が離せません。
 

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