2013年4月18日木曜日

私たちは何故戦うのか「Why We Fight」

アメリカ上院議会で、銃規制法案が否決された。共和党議員だけではなく、民主党議員も反対票を投じたとのことで、民主党が過半数を握る上院で、銃規制法案が否決されたというのは、ショックが大きいことだろう。

 アメリカでは、銃による悲劇が幾度となく繰り返されている。オバマ大統領も2期目という事で、銃規制強化法案に乗り出したが前途多難という事であろうか・・・。

 今回紹介する映画は、ドワイト・アイゼンハワーの退任演説の風景をジャケット写真として使用したドキュメント映画「Why We Fight」である。


 本作の冒頭は、アイゼンハワーの退任演説から始まる。演説内容は、軍産複合体が、アメリカ社会を支配し、一部の巨大資本の都合によってアメリカ政治が牛耳られる可能性と、その危険性を訴えるというもので、アメリカ史にとっては画期的な演説内容であった。

 ジョン・マケイン上院議員、ベトナム戦争参加者、学者等の様々なバックグラウンドを持つ人々がインタビューを受け、イラク戦争や過去のアメリカが起こした戦争がなぜ起きたかを解明していくという内容であり、本作を見れば、アメリカがなぜ銃規制を進める事に困難が伴うのか理解に役立つだろう。

 「アメリカは、世界中に民主主義を広めるために犠牲を厭わない」というセリフが某大統領の口から発せられる。世界を平和にするために、邪悪な敵を滅ぼしにいくと。しかし、一見偉大な思想に見えるドクトリンにも、大きな陰謀が隠れており、それは軍産複合体の利益であると告発するのが、大まかな流れである。

 アメリカは、民主主義国家として進歩しているが、資本主義と民主主義が常に対立している。その中で、民主主義が勝利しているように見えて、政府の決断の大半は、強大な権力をもった巨大資本によってコントロールされており、実は資本主義が勝利していたのであると。

 著名な政治学者、チャルマーズ・ジョンソン氏が、アメリカの近代史について解説しており、説明が非常に分かりやすく、教科書にはあまり書かれない、巨大資本とアメリカ政府の結びつきについて理解を深めるには必見。

 ジョンソン氏は、「アメリカが辿った道は西洋で初めて生まれた民主主義レジームである、ローマ帝国の道を辿っているという。ローマ帝国は、周辺にある国家を侵略し吸収していった。そして、帝国を維持し、拡大していくには強大な軍事力が必要である事を発見した。」と解説し、アメリカ帝国を風刺した。

 ローマ帝国において発見された帝国の維持拡大の為の軍事力増強が必要であるという教訓が、アメリカ帝国の根幹にあり、その軍事力を支える企業体がアメリカ経済を支えているという皮肉。

 現在のアメリカは、金融立国で経済を牽引しようとした為、製造業は中国等に流れてしまい、輸出出来る製品は限られている。もし、アメリカ政府が軍産複合体を解体しようとすれば、その産業に従事するアメリカ人が職を失ってしまい、経済の疲弊を促進してしまう可能性すらある。

 また大半のアメリカ人は、銃規制に反対する理由はなくとも、最後には巨大資本の論理で政治が動くというのが現状。

 アメリカが銃規制を促進するという事は、軍産複合体に対して不利益をもたらす事は明らかである。一見銃規制は正しいと思われるが、それによって職を失うアメリカ人も出てくる可能性もあろう。

 オバマ大統領の銃規制強化法案は、アメリカ社会の根幹を変える勇気があるのか?、理想を追及するために、どのような犠牲を払う事も厭わない覚悟があるか、アメリカ人全体に対する問い掛けではないだろうか。

 銃規制を促進する事によって、様々な面で国民にとって良い効果も生まれれば、思いもしなかった不測の事態すら起きうる。

 本作は、国家とは一体何か?、企業とは何か?、自分たちが正義として認識していたモノが本当に正義なのか?を考える良い機会になるだろう。

 「The price of liberty is eternal vigilance,And we have not been vigilant」
 自由の代償は、永遠なる用心である。しかし、私たちは用心深くはなかった。

 チャルマーズ・ジョンソン氏が、ドキュメントの最後に発する言葉。
私たちは、まだ無垢過ぎるのではないか。


 
 

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